今年で7年目を迎えたトラカレオープン講座。今回は、ヒッポで育った若手研究者の方々の講座もありました。
竹内昌治さんは、工学博士でモノ作りが専門。あらゆる分野の研究者が入り混じった研究室の話がヒッポのメンバーには共感十分!特に子どもと男性メンバーは目をキラキラさせていました!
鈴木淳さんは、量子情報理論が専門。量子コンピューターのことや相関関係の話などをわかりやすく話していただきました。
古澤力さんは「細胞が語り合うことばを理解する~計算機シュミレーションによる生命システムの解析」というテーマでお話ししてくださいました。
古澤さんは大学では物理学を学び、その後生物学や医学、情報科学と幅広く研究され、今一番理解したいことは「生きものと機械のシステムとしての違い」ということで、物理を背景にした生物の研究をされているそうです。実際にはスーパーコンピューターなどを使って、計算機シュミレーションから生物の発生過程での幹細胞の性質や、細胞間のコミュニケーション(相互作用)など生物のシステムを研究されています。
どの講座もすごく興味深いお話でしたが、今回は古澤力さんの講座の様子をお伝えします。
古澤さんが「生きものと機械の違いはなに?」と質問すると、こどもたちからは「生きものは勝手に増えて勝手に動く」と答え、冒頭で古澤さんを驚かせるシーンも。
機械は、ねじのサイズ一つ違っても、同じものをつくれないけれど、生きものは自分自身と大体同じでちょっと違うものをつくり、それが何世代もの時間を経て、進化していきます。
私たち人間は、親から受け継いだDNAの中にある遺伝子情報によって今のこの自分が生まれてきたわけで、また人間一人の中にも、200種類、60兆もの細胞からできているのに、同じような人間となり、各細胞がほぼ間違うことなく同じような人間の部分になります。なぜ筋肉の細胞は筋肉に、血管の細胞は血管になるのでしょうか。
古澤さんは、それらに対してシュミレーションで、細胞の発生過程でわかっているいくつかの条件を満たすモデルを計算機上につくり、細胞のふるまいの本質を見つけることができたそうです。
細胞は、細胞間のコミュニケーション(タンパク質を通した相互作用)によって役割分担し、筋肉はちゃんと筋肉に、神経は神経になります。でも、こんな複雑な私たち人間(だけでなく多細胞生物)がなぜこんなに安定して繰り返し生まれてこられるのか?それは細胞の中の幹細胞に、自分自身と同じものをつくる能力と、いろいろなものに変化できる能力があるから。たとえば傷を負った時に傷が治るということは、皮膚だった細胞が皮膚に戻るのではなく、皮膚の近くの幹細胞が皮膚の細胞へ変化するのだそうです。
そして幹細胞が、時間的にふにゃふにゃしていること、いろんな状態に行ったり来たりしている幹細胞の性質が大事で、この「ゆらぎ」が進化とか適応など生物システムが持つ柔軟で安定した性質の本質的な部分なのだそうです。この細胞のゆらぎを、シュミレーションから探って、大学時代には予測していたという古澤さん。最近実験からもわかってきて「ゆらぎ、細胞はフラフラしている」ということが共通認識となってきたそうです。
こんな話を古澤さんが、対称性の破れを例にとって話してくれると「おぉ~!」とどよめきながら「それなら何となくわかる」とうなづく人たちや、「ふらふらしていると何にでもなれる」というキーワードに「よく親からフラフラしてると叱られるけど、今日の講座の話を聞かせてあげたい」という高校生がいたり、傷が治るのは幹細胞の変化という話を聞いた小学生が「整形手術をしたらどうなるの?」と質問したりと、皆のはてな?も大きく揺さぶられて、わからない世界をフラフラして、大人も子どももワクワクした講座となりました。